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自動車の電子化のお話

最近のエコブームで燃費が良いハイブリッド車や、ゼロ・エミッションのEV車が人気です。また、現在もまだ一般的なガソリンやディーゼル車も、高い燃費性能を叩き出しています。他にもオートブレーキやオートクルーズなど、人の運転をサポートし安全性を高める機能も充実してきました。そして、その進化の究極系とも言える自動運転車なども話題になっています。

この背景には、100年以上かけて進化を続けた自動車の歴史があります。人の手間を減らし、人の安全を守り、より快適に運転でき、かつ地球環境にも配慮する。時代によって進歩の目的が変わることがあっても自動車は確実に発展の途を歩んできました。今回は、その過程で重要な位置を占め自動車の発展を支えてきた自動車の電子化に関して書いてみようと思います。

大昔の自動車は電気を使っていなかった

古い映画などで見たことがある方もいると思いますが、大昔の自動車は曲がった棒(クランク棒)をエンジンに挿して手で回して始動するか、人が自動車の後ろから押して始動させていました。そのためバッテリーは乗っておらず、ライトはオイルランプやガス灯でした。

セルスターター登場

しかしそれでは手間がかかる事や、エンジン始動とともにクランク棒が回って回した人が吹き飛ばされる事故等もあり、安全にエンジンを掛けられるようにセルスターターというモーターでエンジンを回して始動させる装置が付きます。

このモーターを動かすためにバッテリーが乗りました。これが自動車の電子化の走りと言えます。また、バッテリーを積んだおかげでライトに安全性の高い電球が使われるようになりました。

その後いきなり電気自動車

あまり知られていないようですが、実はこの後にどうせバッテリーとモーターを載せるならそのまま走ってしまえと、電気自動車が急激に普及しました。

ですが、当時のバッテリーとモーターの性能では走れる距離が短いということも有り、急激に廃れました。ただし電気自動車そのものは構造的に単純なことも有りガソリン自動車よりも歴史が古く、エンジン特有の振動や排ガスも無いので快適で、走行性能も電気自動車の方が上だっため当時はガソリン車以上に将来が有望視されていました。

また急激に廃れた後も細々と続いて行きますが、自動車業界の覇権争いからは完全に置いて行かれることになります。この電気自動車が再び脚光を浴びるのは、電子化が大きく進歩しガソリン車に対抗できるようになる100年も後になりますが、これはまた別の話。

しばらくこの時代が続きます

そして、自動車にはセルスターターや電灯、エンジンプラグの点火などに電気が使われていたぐらいで、制御は機械式でした。現在に続く電化が進むのは半導体の登場を待つことになります。

なにせ当時は真空管でした。ラジオは座敷に鎮座させる物、そんな時代ですから軍用車でもない限りは自動車に余計な物をのせるなんてことは考えられませんでした。

世紀の大発明、半導体の登場

戦後、世紀の大発明とも言える半導体が実用化しました。これによりあの座敷に鎮座していたラジオが手に乗るサイズになりました。また、その後より集積度が上がり性能が大幅に向上したICの登場で、電子回路全体のサイズが小さくなり狭いスペースに入れることが出来るようになりました。

今まで機械的にタイミングを制御していたものを、電気的に制御するために使うようになり(いわゆるEngine Control Unitという意味でのECU、現在のElectronic Control Unitの走り)、またはいろいろな場所にセンサーを載せて自動車の状態を管理出来るようになりました。

その後半導体は急激に進歩して行き、現在に続く情報化社会への道を猛スピードで突き進んでゆくことになります。

Engine Control UnitからElectronic Control Unitへ

車のあちこちに電子回路が積まれると、それぞれの動作の整合性を取る必要が出てきます。例えば、子供が飛び出してきて急ブレーキを踏んだのに、ECUがエンジンの回転が落ちたからと勝手に出力を上る、なんてことをされたら止まれるものも止まれません。

また、エアコンを付けて電力を消費した場合、エンジンが負荷の変動に対して何もせず回転数を維持したら、発電量より消費量のほうが多いままバッテリーが上がってしまう、なんてこともありえます。

そのため、それぞれの電子回路の間で通信を行って、お互いに調停し合い協調動作をさせる必要が出てきたのです。こうして、ただエンジンの制御だけを行っていたECUから、各電子回路の相互制御を行うECUに移っていきました。

電子化が整備を難しくした

昔の単純な車は、壊れたり調子が悪くなったりしたら、職人が音や振動で不具合を見つけて修理や調整をしていました。しかし電子回路はそういうわけには行きません。電子回路自体は基本的に音を出したり振動したりしません。

また上で説明したように離れた部分が相互に制御されて協調動作していますので、エンジンの調子が悪くても実はエンジン周りの不具合ではない、ということも有ります。そのため、電子回路によって、発生している不具合を検知する必要が出てきました。

不具合はどこだ?

そのような要求もあったため、特殊な操作を行うことでとこでエラーが発生しているかを確認する機能が搭載されました。

しかし、最初の頃は当時の半導体の性能の問題もあり、おまけ程度で無いよりはマシなレベルでした。エンストするとエンジン警告灯が点灯しますが、あれもいわゆるエラーが発生したという表示の一つです。

無いよりはマシなだけなので、それで不具合の場所が大体わかっても、調べなければいけない範囲は数多く有ります。せっかくあちこちにセンサーを載せているのに、この頃の整備はエラー表示で当たりをつけて、不具合の状態からおそらくここだと決めるのはまだまだ職人芸の領域でした。そこで、ECUと直接通信して実際に不具合を起こしている場所を特定する機能が求められました。

見つけやすくなったけど・・・

こうして、ECUと直接通信が出来るようにと通信用端子のOBD(On-Board Diagnostics)が登場しました。そして、ここに繋いで不具合のある箇所や現在のセンサーの値を表示させて異常がないか確認するツール(いわゆるスキャンツール/ダイアグツール)も登場しました。

しかし、各社対応がバラバラで、通信方法、通信内容、コネクタの形状に至るまでメーカーごとに違いました。メーカーのディーラーだったら自社の自動車だけ対応していればいいかもしれませんが、主要なメーカーの面倒を見る必要のある町の自動車工場にはたまったものではありません。

純正のスキャンツールは基本ディーラーのみにしか収めてくれませんし、購入できたとしてもそのメーカにしか使用できません。そのため主要メーカーの自動車に対応しているサードパーティ製のスキャンツールの登場となりますが、この頃はインターネットもなく情報収集は本か業界紙か業者同士の横のつながりぐらいなので、導入のハードルは色々と高い時代でした。

そしてOBD2が生まれた

こうした状況に煮やしたヨーロッパやアメリカが、排ガス規制を行う都合もあって共通の規格を採用するように要求してきました。これにより各社多少の違いは有りますが、共通の通信規格で通信できる様になりました。

これが現在の自動車についているOBD2のコネクタです。これにより自動車の診断のコストが下がることになりました。以前から有るエンジン警告灯の点滅回数からわかる大雑把な診断から、ピンポイントで故障の位置をほぼ断定することが出来るようになったのです。

まとめ

このように、自動車は運転時の人の手間を少しでも減らすように電子化してきました。電子化でメンテナンスが困難になった問題も、同じく電子化で解決してきました。現在の自動車はハイブリット化や電気化で、エンジンそのものも電子化されてきました。

最近は運転手までも電子化しようと各社しのぎを削っている最中です。また、設計も電子化したことでより良い設計が短時間低コストで行えるようになり、その結果、より安全で快適になった車が今までと同じ値段で手に入るようになりました。

電子回路は人の目に触れない地味な存在ですが、電子化の最も重要な基礎を支えています。人が自動車に快適性を求め続ける限りは間違いなく自動車の電子化は今後も続いていくでしょう。

次回は、実際の電子回路の話ができたらと思います。

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