取締役 元垣内 広毅(もとがいと ひろき)工学博士
まずは入社からの経緯をざっくり教えてください
入社まで遡って思い返すと、なかなか一言でいえない範囲の業務ばかりですが、入社は2015年1月、2人目の社員としてジョインしました。もう6年近く経つことになりますね。
元々の専門は数理統計や機械学習、データ分析などで、前職ではデータサイエンティスト、さらにその前は公認会計士の仕事をしていました。そういったデータや数字に関連した領域が得意分野ではあるものの、2人目の社員としてジョインしたわけですから、むしろ当初は特定領域の仕事ではなく、会計ソフトを買ってきて月次決算ができるようにしながら、パートナー企業との取組みのプロジェクトマネジメント、自社サービスの開発ディレクションやQA、ビジネス開発に加えて、サービスがリリースされれば営業など、それぞれのフェーズ毎に他にやる人がいないところを自分でやるといった雰囲気で幅広くやってきたという感じです。
様々な領域でメンバーも充実して、最近になってようやく、データ領域での仕事にある程度没頭できるような状況になってきてまして、同時に業界環境や会社のステージとしてもそれが求められているというフェーズに入ったなと感じていて、ようやくより専門性を活かした仕事に本腰を入れられるという状況ですね(笑)
データ解析や機械学習にはどういうきっかけで興味をもったのですか?
近年は機械学習やAI、ディープラーニングという言葉を目にしない日はないくらいホットトピックになり、それらの技術の数学的背景なんかも専門書だけでなく、ビジネス書などでもわかりやすく説明されているものも見るようになっていますが、当時の何も知らない人にはなかなか説明しづらいし、また、伝わりにくいような時代から考えると隔世の感がありますね。
一部の専門家や研究者が苦労して自前で実装して活用していた時代から、今ではシンプルに活用できる便利なライブラリもあって、スピーディにそういった技術を社会実装できるようになってきています。
一方で、機械学習は、従来の統計学的な手法と比較すると予測精度は良いが、その結果の解釈ができずにブラックボックスになりがちだとも言われ、「機械学習の解釈の可能性」というテーマが権威ある国際会議でもホットトピックとしても議論されたり、そういった原理を理解し新たな技術を社会実装しイノベーションを起こしていくために必要となるルールのあり方なども注目されているんですが、自分は大学時代そういう可能性を数理的アプローチから追求する研究をしていました。当時から研究していたテーマが、最近では新聞や雑誌でもわかりやすい表現で見かけるようになってきていて、個人的にはとても感慨深いですね。
そもそもなぜこの領域に興味をもったのかと言うと、工学部の中にはいろいろな分野がある中で、通常は専門性を高める程、活躍のフィールドがより特定の業界にフォーカスされていくものだと思いますが、逆に専門性を高める程、どういった道に進んでも活かすことができる基礎を身につけられるような学問に面白みを感じ、それで、数理統計やデータ解析に目をつけました。
注目されていなかったが、数理領域に汎用性と実用性を感じた
データは当然日本国内だけでなく世界中にもありますし、必要となる業種業界も幅広く、データを扱う知識・スキルはとても汎用的だと考えました。あとは、大学入ってまもない頃、線形代数とかベクトル解析とかの工学系で必要となる数学を勉強しますが、個人的にはこういった数理領域に様々な応用での基礎学問としての面白みを感じていました。一方で、まわりの学生たちはすごくつまらなそうにしたんですね。それを見て、ある意味、無名の名店や、あまり人に知られていない面白い場所を見つけて、独り占めして楽しむ気持ちに近い感情が湧いて、これはおいしいぞと思いました(笑)ちょっと変わっていたかもしれません(笑)
当時は特に、工学部は、普通、メーカー系に就職することが多かったのですが、僕が在籍していた数理系の学科の卒業生を調べてみると、銀行、保険、製薬、メーカー、インフラ、IT、メディアなど多種多様な進路だったんですね。卒業生の就職先はまさにこの学問の汎用性を証明しているのではないかと勝手にポジティブに解釈していました。
それと、大学2年生の時に受けた授業の中で、公開情報を使って統計モデルをつくるという課題があって、当時たしかヤフーの賃貸情報から賃貸物件データを引っ張ってきて、いろんな情報を加味して家賃を推定する統計モデルをつくったことがありました。
難解な確率論とかの理論に終始するのではなく、シンプルでより実践的な活用ができるんだという肌感も得て、そこからグッとデータ解析に興味をもつことになりました。興味はもったものの実際の大学4年間は、学業よりも、バイト、バックパッカー、バイクツーリングなどに全力で明け暮れたので(笑)そのまま修士課程に入ってから本格的に学びはじめました。
大学院ではどんな研究を?
修士課程での研究は何をしていたかというと、統計解析の伝統的なテーマとして、ある結果に対して何が大きく影響している要因なのかをあぶり出すような話があるんですが、それに機械学習の技術を融合させて、要因分析の精度向上や何かを予測する際の予測精度を向上させるようなことを研究していました。機械学習の領域に、統計解析で使用される方法論や技術を持ち込んで、機械学習のブラックボックスを紐解くというようなこともやっていました。
当時、データ解析と並んで、公認会計士にも興味をもっていました。会計の知見やスキルは、データを扱うことと似ていて、業界によらず汎用的に活用できるものだし、実際に合格後に殆どの人が勤める監査法人では会計という視点から様々なビジネスをみることができるという意味では、会計士もありだなと思っていました。
そういった中で、会計士試験の試験科目に統計学が追加されるという個人的にはビッグニュースが入ってきまして、会計監査においても統計のスキルが求められるようになってきたということで、修士レベルの統計スキルを身につけた上で会計士として就職しようと決意しました。ということで、この時点では博士課程には進まないつもりでした。
大学院と会計士専門学校のダブルスクール
それで、修士課程をやりながら、会計士試験の勉強するための専門学校に通い始めたんです、いわゆるダブルスクールというやつですね。普通だったら専門学校に朝から夜まで詰め込み型で勉強するわけですが、自分の場合は大学院もあったので両立させる必要がありました。
授業がある日はまず午前中に大学に行って、夕方からは専門学校に行って夜10時くらいまで勉強し、その後大学の研究室に戻って深夜1-2時まで研究して、というような生活がひたすら続きました。バイトもほとんどする時間がなくて、家庭教師だけは生活を支えるために最低限やって、あとの時間は研究と会計士の勉強にすべてつぎ込みました。
そんな生活なので、当時引っ越して住んだのは不動産検索サイトで検索して安い順に並べてトップだった物件で、なんと当時で家賃が16,000円でした。水道・ガス、シャワーは共有で、でもボロボロの文化住宅かと思いきや7階建てでエレベータ付きの5階か6階の部屋で、なぜか光ファイバーがついていて家賃にインクルードされていたんですが(笑)、今考えると窓のある倉庫ですね(笑)。4畳半の部屋になんとか折り畳みベッドとデスクを置いて、とにかく寝る直前までデスクで勉強して、そのまま後ろに倒れるとベッドがあるという、そんな生活でした(笑)
当初は、会計士試験を中心の生活を考えていたものの、当時の大学の恩師である先生のそばで人生哲学を教えてもらったり、先輩、友人の研究活動への情熱を感じて刺激を受けたり、特にネタもないまま容赦なく学会発表へのエントリーも決まって、大学院の研究自体も到底片手間ではできない雰囲気の中で、先生や先輩の過去の論文や、海外の論文を読み漁って、もがき苦しんでいるうちに、気がついたら段々と火がついてきてしまい、先生に真っ赤に添削してもらいながらも、最終的には、修士課程中に複数の論文投稿をして、それを纏めて修士論文を書きました。
ある程度成果が出ているし、自分としてもせっかくならやり切ろうという気持ちと、「統計の学位をもった公認会計士になれば良いじゃないか」という恩師の言葉や、日々会社勤めをしながら学位を取得した多くの先輩、友人からのアドバイスもあり、また、いずれにしてもまだ会計士の勉強は続いてたので、それであれば勉強を継続しながら博士号を取得しておくというのもひとつの方法だなと思ったのが、博士号を取ったきっかけでした。
会計士試験に合格し監査法人へ
結局、博士課程に進学して、会計士試験に合格したので、在学中に監査法人に就職しました。その段階で、社会人ドクターになったわけですが、最終的に、博士論文を纏めるのは、思った以上に大変でした。
会計士試験に合格すると、監査法人で実務経験積みながら、会計士協会の補習所に3年間通って単位をとります。今は働き方改革が起きているようですが、当時、監査法人はかなり忙しくて四半期毎に40日連続勤務とかもありましたし、平日は疲れて研究どころではないし、監査法人の仲の良い同期や先輩とは公私にわたり時間を共にしましたが、繁忙期が終わると割とまとまった休みが取れるのですが、そのタイミングは海外とかに遊びに行きたいという誘惑にも度々負けてました(笑)
好きで始めているので、途中でドロップアウトしたりは考えたことがありませんでしたが、己に打ち勝つのはなかなか大変でした。一旦、会計士になってしまうと、何もしなければ会計士の中でのオリジナリティを見出していくのは、なかなか難しそうだなとも感じていたので、統計解析の博士 × 会計士というのは良い個性にできるかもしれないという気持ちで自らを鼓舞したりしていました。
監査法人からモバイルゲーム業界へ
3年ほど実務経験を積んで公認会計士になった後、そのまま監査法人に残るか、転職するかという選択肢を考えていました。当時相談した監査法人のパートナーが言っていたのは、「アメリカだと統計解析や機械学習の知見も監査に活用できる事例なども出てきてるようだから、あと3年くらいがんばったら向こうに行ってそういうケースに携わってもらうこともできるかもしれない」というような話だったんですが、もし本当にそうなったとしても、3年は結構先だな(笑)と思ったのを覚えています。
一方その頃、たまたまメディアで見かけたのが、Facebook社でソーシャルグラフを理解するために、当時はまだアカデミックの領域でしか話題にならないような統計解析手法を応用し始めているという記事でした。日本ではそれから間もなくソーシャルゲームバブルの時代がやってくることになったタイミングだったのですが、当時のグリー、DeNA、Yahoo、ブレインパッドなどではデータマイニング職の求人が出始めました。当時はデータサイエンティストというものがなかったんですが、今でいう機械学習や統計モデルに強いデータサイエンティストという意味とほぼ同義で使われていました。
求人票の要件を見ていくと、内容やキーワードが非常にマニアックで(笑)当時はまだ大学院レベルでちゃんと統計解析や機械学習を学んだ人じゃないと意味がわからないだろうなというもので、まさにこれは専門職として本気で採用しにきてるなということがわかりました。自分にとってはつまり、3年も待たずに、すぐにアカデミックの成果を直接的に生かした仕事ができるんじゃないかと思ってうれしかったですね。
そして、実際にそれらの会社に話を聞きに行ってみたら、まさにこれからデータマイニングなどのデータ解析をやろうとしているというタイミングだったんですね。僕は当時ちょうど30手前という年齢でもあり、未経験の業界に飛び込んでいくには最後のチャンスかもしれないと思っていたので、思い切って飛び込むことにしました。
モバイルゲーム会社におけるデータ解析業務
前述のように、当時はグリー、DeNA、ヤフー、ブレインパッドなどがデータマイニングだったりデータ解析系の求人を募集しているところでした。その中で最終的にグリーを選んだ理由は、当時、一番会社の歴史という意味で若く、その一方で急成長していて、データ分析含め組織的にもこれからつくっていくようなフェーズだったので、まさにフロンティアという環境でした。専門的な部分はあっても、異業種からのチャレンジなので、良くも悪くも整備されていない環境で揉まれた方が、経験の幅が広がるのではないかと考えました。
入社してみると当時はまだデータ分析の専門部署はなくて、内製ゲームのディレクター部門の中で、個別のゲームタイトルではなく、GREEという一つのサービスという視点での企画開発運用をやっているチームが、ゲームやサービス横断でグロスハックする中で、データドリブンな施策の必要性に迫られて、データ分析の業務が発生しているような状況でした。そのチームの中で、数名のチームメイトと共に、自分は見習いwebディレクター兼データアナリストのような仕事からスタートしました。専門組織化されていないので、データ分析業務を他の部署から請け負うのと異なり、業務としてそのドメイン知識をもつメンバーがデータ分析をする環境は成果が出るまでのスピードが圧倒的に早いので、分析チームの立ち上がり方として今でも参考になっています。
ユーザーの会員登録以降のライフサイクル全体の視点で、新規ユーザーが入ってきたときに、例えば、どういうチュートリアルを作っておいて、まずどういうゲームをプレイしてもらうと、継続率や滞在時間、課金額が上がるかとか、そういうのをトライアル&改善的なサイクルを回しながらやっていくわけですね。どういうユーザーに、どのタイミングで、どういったコンテンツで、コミュニケーションをしていくと良いかを考えて試して、ABテストしながら上手くいったら開発リソースを割いてシステム化して自動化する。今でいうマーケティングオートメーションに近いものを、当時は自分たちでつくってチューニングしながら繰り返し改善していたイメージです。
ユーザーにできるだけ毎日プレイしてもらい継続率を上げてもらうことを考えた時に、1人でプレイするよりも友達と一緒にやれる方がいいだろうとか。そうであれば、できるだけ早いタイミングで最初の友達がつくれるような仕掛けを用意したり、コミュニティをつくってそこに入ってもらったりしようとか。友達は同性同士の方がいいのか、異性の方がいいのかとか。アバターのルックスの傾向からユーザー同士の相性がわかるかとか。そういったことを様々なデータに基づいて比較したり効果検証していったりしていたら、そういった活動をしているメンバーが集約されて、データアナリシスチームという形になっていきました。
入社したタイミングが、ソーシャルゲームバブル真っ只中で、機会損失を考えると、緻密なことを時間をかけるよりも、とにかくスピーディな施策の実行、検証を繰り返すことが求められるので、発想自体をよりシンプルにして課題の特定とその解決ができるかを考えていました。
そういった場面では、ひとくちにデータ分析と言っても、機械学習や統計解析というような高度な方法論はほぼ不要で、それよりも、まず、テーマ自体が複雑な話を構造化して四則演算を使ってシンプルに意思決定に活かすデータ分析をしていくこと、イメージとしては、ロジカルな思考で、仮説設定、テスト設計した上で検証を通じて、「集計」「可視化」「自動化」に落とし込んでいくような取り組みをスピーディに回していく方がより成果につながりやすいこともあるということを実感できた時期でもありました。MAUで数百万を超えるようないわば、統計学の大数の法則を肌で実感できる規模のユーザー行動のビッグデータをデータマイニングというか、単純に泥臭くデータをマイニングしていました(笑)
その後、スマホのネイティブゲームの競争が激化したことで、ユーザー数の伸びが鈍化し、さらにはユーザーの流出が顕著になってきたタイミングが来ると、コストパフォーマンスを考えて、より精緻な予測をしながらプロモーションやキャンペーン等のマーケティングコストを使うことへの関心が高まったり、各プロダクト側でも、ある程度のデータドリブンな施策はやり切っていた中で、何か新たな秘策を広く求めたような背景もあり、統計的モデルを活用し先進的な取り組みをするようなチームで、よりモデルづくりとか機械学習技術の活用にフォーカスした仕事をしていました。ユーザーの離反予測モデルをつくったりとか、今では目にするようなテーマでも当時は参考になるものがなく手探りの時代でした。
ユーザーが離反しそうになっている兆候がわかって、かつそれがこれまで優良顧客だった場合、このユーザーの離反を止めにいくことって、特に新規獲得が鈍化するようなタイミングでは、すごく事業インパクトが大きいわけですよね。であれば、こういう人たちを早い段階で見つけて優先的に施策を打ちにいくべきだと。そういうユーザー毎にスコアリングをする仕組みをつくって、色々なゲームタイトルのプロデューサー向けに社内営業したりして各ゲームタイトル内のターゲティングの施策に使ってもらったりしていました。
グリーでは3年くらい働いたのですが、前半は、テーマ自体が複雑な話を構造化して四則演算レベルのシンプルな計算で意思決定に活かすアウトプットを出すデータアナリスト、後半は、テーマ自体がシンプルなものを高度な方法論で精緻に予測・判別する仕組みをつくるデータサイエンティストという感じでした。事業会社の社内部隊としてデータへのアクセスもしやすい環境で、自分でデータを見ながら仕事のネタを探し、実行していくところは共通でしたが、同じデータ分析でも異なるアプローチや視点をもつ仕事の持ち味を理解できたのは、現在にも繋がる本当に良い経験でした。
(後編へ続く)
人事のインタビュー後記
どんな難題があっても常に解決に向けてひたむきに取り組む弊社のスーパーマン、元垣内へのインタビューはなかなか驚きや発見が多いものでした。
いつもニコニコしていて人当たりも非常にフレンドリーなルックスと裏腹に、自分が取り組んでいることにはとにかくストイックな元垣内ですが、大学院在学中にを公認会計士試験も合格し、監査法人での激務をこなしながら博士課程も修了してしまうというあたりも常人の域を超えていますよね。
個人的にとても印象的だなと思ったのは、元垣内が大学生の当時から、多くの人が苦手だったり敬遠しがちなことや、あまりやらないようなことには、その分大きなチャンスやマーケットバリューがあるということを意識していたということでしょうか。
もちろん自分の得意不得意もあるわけですが、なるべく人が持っていないものを持とうとするというマインドは、日本の大学生においては稀有な傾向だと思いますし、当時から自身のキャリアというか生存戦略をしっかり見据え、それをストイックにやり抜くスタンスは、弊社での仕事においても常に目にする元垣内の一貫したスタンスで、その仕事ぶりから多くを学ばせてもらっています。
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