今回のInterviewee:
取締役 元垣内 広毅(もとがいと ひろき)工学博士
今回のエントリーは社員インタビュー後編となりますので、まだ前編を読んでいないという方はぜひこちらからどうぞ。
後編は弊社取締役の元垣内が弊社に入社した時点からの話になります。
データ解析はどう始まったのか
入社後しばらくは、そもそも解析するべきデータの蓄積自体がほとんどありませんでした。はじめていわゆるデータ解析っぽいことをやり始めたのが、社内で「G-Force」と読んでいる重力マップを開発し始めたところからでした。これに関しても、ビッグデータが集まったからさあやりましょうと始めたわけではなく、ユーザー数が多いという意味でのビッグデータが整うのを待っていたらいつになるかわからなかったので、そういう種類のビッグデータがなくてもできる解析をまず始めていこうと考えました。 ビッグデータにもいろんな考え方があると思っていて、例えば、1万人が1時間運転した1万時間の運転データと、1人の人が1万時間運転した運転データは、どちらも1万時間の運転データですよね。前者は1万通りの運転手の特性が1時間分詰まっているデータで、後者のデータは1人の運転手を1万時間も深く見ていくことができるデータだと大別できるかもしれません。つまり、まず後者から始めていったということです。 ビッグデータというのは、当然ですがビッグであれば価値があるとは限らないですし、ビッグデータはあるけど活用はできてないという状態は昔も今もよく聞く話なので、単に規模が大きいデータだけあってもしょうがないとはずっと思いながらやってきました。 うちの端末も最初のOBD-II端末からシガーソケット型に変わったり、筐体の形やサイズの改良、内部部品や回路に手を加えたり、BLE接続モデルの他に端末のみで通信できるモデルも提供し始めたり、ここまで様々な変遷を遂げてきましたが、取得するデータという意味で大きな変化だったのは、OBD-IIでは車の車載コンピューターから取得していたデータが、シガーソケットタイプになってからはGPSや加速度・ジャイロセンサーで取得するデータに置き換わったというところです。そこから、G-Forceの開発が始まっていきました。単なる数字の羅列をいかにして価値ある情報に変える
最初はいろんな論文を読みながら、センサーデータの解析の仕方を先行文献を参考にしながら調べていきました。当時のうちの端末だとOSも積んでないですし、チップマイコンが入っているだけで高度な処理はできなかったので、端末としての制約がかなりある中で解析できるようにするためのロジックを考えないといけないのがチャレンジでした。 便利なライブラリを使うようなこともできないので、すべての演算を自前で書いていくような形になるわけですが、かといって計算量が膨大にならないようなものを作らなければいけなかったので、まさにR&Dというか、それこそ線形代数やベクトル解析的な演算レベルで処理を考えて、途中、数学的に美しくかつシンプルな計算処理に気がつくと快感を覚えたりしながら(笑)、開発というよりは研究に近いレベルのことをやっていました。 もちろん端末のスペックを上げれば高度な処理ができるようになるのですが、そうすると今度は製造コストがグッと上がります。あくまでも製造後の拡販を想定した上でビジネス的に成り立つのかという視点は必要なので、単に性能が良いものを作ればOKというわけではありません。 これがなかなか難しくて、いろんな方々の知恵や経験もお借りしていくつものヒントを得ながらやってきたわけですが、最終的には自分達で苦しみながら様々な難所や制約を乗り越えて、弊社の運転診断の元となるG-Forceが完成するに至りました。これは今でも継続的に進化させていっているものなので、開発して終わりというプロジェクトではなく、その先には更なる進化もあるわけですが、とはいえ自分が入社して以来で考えても、「大変だったことランキングTOP5」に入るプロジェクトでしたね(笑) 結果としてこれはうちの強みやオリジナリティの1つになっているので、まずは一旦そこまで昇華させられたのはよかったなとは思っています。一見ただの時系列の数字の羅列でしかないものが、人の運転の特性を表すものになるという意味づけをしていくものに初めてなったわけです。その上でようやく分析をしていくことができるという、その土台になるものができた瞬間でもありました。限られたデータという制約がある中で価値を創出する

データを活用した事業をする上で重要なこと
実際にあったケースですが、うちと他社でコンペになった際に、うちのデータ解析の汎用性・柔軟性が、最終的にうちを選んでいただいた決め手になったことがありました。コンペの企業のソリューションでは、ある特定の端末において取得できる非常に多くの細かいデータを活用していくという話だったのですが、逆にうちではタイムスタンプと速度情報のみでもかなり深い解析ができますという提案でした。 もちろん、高価であっても、特別な専用端末で精密なデータを取得しないとできないこともあるので、ここで話しているケースというのは、あくまでも一般法人企業に対して提供するSaaSという条件下においては、端末にかけられるコストは限られていると思うのと、事業のスケーラビリティを考慮した時に、できるだけ汎用的なデータの受け方ができるプラットフォームの方が有利であるという考え方を前提とした話ではあります。 できるだけシンプルなデータセットで深い解析ができるモデル、それが僕がこれまで取り組んできた開発です。お客様の中には「本当に速度データだけで大丈夫なの?」とびっくりされる方も結構いらっしゃるわけですが、実際は速度情報だけでも様々なシーン分けができるので、細かくはここでは話せませんが(笑)、うちの強みのひとつはそこにあったりもします。 前述のビッグデータの話に戻ると、データが大量にあるというだけでは価値がなくて、お客様にとって価値があるデータにするためにはどういう視点・切り口で見ていくのか、それらをどう組み合わせて解釈・意味づけするのかという「料理」の部分がより重要になってくると考えています。 結局のところ、データだけ見せて「なるほどね」で終わりではなくて、そのデータをもとに何らかの意思決定に寄与して、施策を打てるのかというところが大切です。まさに今は「データをいかに活用するか」というところに各社必死になって取り組んでいる時代かと思いますし、どう活用するかの具体的なイメージがあるからこそ、「そのためにはどうデータを集めるべきか」という視点も生まれて、かつてよくあったような「どう使うかはわからないけど、とにかく集めてはみた」みたいなことが起こりにくくなるのかなと思っています。 今後はますます弊社のデータ活用事例が世の中に出ていくことになると思うので、ようやくここまできたかという思いと、まさにここがスタートラインだという思いもあって、ますますエキサイティングなフェーズになってきたなとワクワクしています。
移動データ活用のこれから
「移動・交通データ」という文脈で言うなら、運転特性や事故リスクというデータにとどまらず、位置情報データは、下の資料(2020年4月28日開催「Mobility Transformatation 2020」より)にあるように、今後はますますこの「移動データ × 他のデータ」という、データの掛け合わせでビジネスオポチュニティが拡大していくことになると思っています。

人事のインタビュー後記
元垣内が語るモビリティデータ活用のこれからは、本当にエキサイティングなものです。まだまだ黎明期と言えるこの領域で、彼が見据えているデータ活用の世界がどのように展開されていくのか。内部の人間としても期待で胸が膨らむ思いです。 ともすれば「AIで〜」とか「車がすべて自動化されて〜」という、途中の過程をすっ飛ばした先のフワッとした未来の話になりがちな領域ですが、そこを地に足つけて一段一段まわりのプレイヤーをうまく巻き込みながら登っていこうとしているのが弊社であり、元垣内の得意のスタンスでもあるので、静かにワクワクしながら見ています。 今後のスマートドライブ 、そして元垣内にも引き続き乞うご期待です!関連記事
-
【社員インタビュー】すべての経験を糧に成長を続けるマルチプレ・・・
「社長になりたい」。 持ち前のポジティブマインドとタフさで突き進んできた新卒時代 − まずは簡単に自己紹介お願いします 山﨑裕一です。出身は千葉県で、妻と小学生の娘・息子と4人暮らしです。趣味は … 詳しく読む
-
【社員インタビュー】既存スマホアプリをFlutterに切り替・・・
− まずは簡単に自己紹介お願いします 宮木: 宮木修平と申します。スマートドライブでモバイルアプリエンジニアをやっています。受託開発企業、モバイルアプリ開発パッケージの運営企業を経て、スマートドライ … 詳しく読む
-
セールスイネーブルメントで実感した成長と新たなチャレンジ
稲垣:今回はSmartDriveのセールスイネーブルメントについて、AEとして活躍するお二人のインタビューで、伝えていく事ができたらと思っています。まずはこれまでのキャリアや、今の役割について簡単に教 … 詳しく読む