最近よく耳にするようになった「CRO」(チーフ・レベニュ・オフィサー)や「レベニューマネージャ」とはどういった仕事なのか?注目のスタートアップをお招きし、「営業部長との違い」「やりがい」「課題感」など話をうかがってきました。
−− まずは、みなさまの肩書きと職務内容について教えてください。
弘中 丈巳(ひろなかたけみ 以下、弘中)
株式会社スマートドライブでレベニューマネージャーを務めています。
マーケティング・インサイドセールス・フィールドセールス・カスタマーサポート・カスタマーサクセスのマネージャーとしてレベニューを最大化するために、それぞれの部門間のデータを一元化し、オペレーションの統一とエンジニア部門とのプロダクト開発の内容やスケジュールを調整しています。
田口 槙吾(たぐちしんご・・以下、田口)
株式会社FORCASで執行役員とCROを兼務。マーケティング・インサイドセールス・フィールドセールス・カスタマーサクセスを横断して全体の最適を考えた組織体制を構築しています。現在は、チームバランスを考えつつ、顧客開拓を行っています。
西山 直樹(にしやま・なおき 以下、西山)
ベルフェイス株式会社で取締役およびインサイドセールス支援事業部長を務めています。
マーケティングチーム ・SDRチーム ・セールスチーム ・カスタマーサクセスチーム ・CSマーケティングチーム ・ビジネスイネーブルメントチームの6チームを管掌。各チームにいる6名のマネージャーがそれぞれのミッションを遂行するためのサポートをしています。それぞれが高い専門性と強いコミットメントを持って活動していますので、私自身はハイパフォーマーの採用や、各自が強みを生かすことができる適切な人員配置、潜在的な課題に対しての中長期的な施策を考えて打ち手を講じていくことがメイン業務となっております。
−− 一般的な営業マネージャーとレベニューマネージャーとの違いはどの点にあると思いますか?
弘中:今までは、売上を作る=営業の仕事だと思われることがほとんどでしたが、最近ではSaaSやサブスクリプションのサービスも増え、販売後にCS(カスタマーサクセス)が収益化を担うことも増えてきました。従来の「売上を作る部分は営業だけで良い」という考えのままだと、単純に数字を積み上げるだけになってしまいますが、目先の案件が顧客にとって本当に良いものかどうかをしっかりと伝えたうえで関係性を築き、その関係性を保持しながら収益に反映させるには、CSやマーケティングとの連携が必要です。そこの連携部分を円滑にするのがレベニューマネージャーの役割であり、今までの営業部長との大きな違いではないでしょうか。
西山:私も同じ考えです。
田口:そうですね、今までの“いわゆる”営業部長は、営業部のみの最適化を中心に考える方が多い印象です。レベニューマネージャーはそうした考え方とは異なり、全部門を一気通貫して見るイメージですね。両者が決定的に違うのは、組織全体での最適化を目指すという点。求められるスキルやロールの大きさも高レベルですし、縦ではなく、横軸で見て考えなくてはなりません。バリバリの営業上がりの方だと、そういう思考の人は少ないような気がします。
−− つまり、SaaSやサブスクリプションのサービスを提供している企業では、営業部長ではなくレベニューマネージャーが中核を担うということでしょうか。
弘中:サービスどうこうはほとんど関係ありません。SaaSのセールスチームであっても、先ほどお話ししたような思考を持っていなければ、売れるものも売れませんし。SaaSやサブスクリプションサービスを提供する企業が増えてきたので、収益構造に入っていなかったクロスセルやアップセルが今まで以上に可視化された。そうした意味合いが強いと思います。
SaaSという言葉とサービスが認知・普及されたことで、正しいこと・正しくないこと、そして今まであやふやだったものが明確化されてきたのではないでしょうか。
田口:現在では分業体制が引かれ、数字を可視化してレベニューを考えるという流れが主流になっていますが、こうした体制になる前はどのような肩書きの方がどのように取りまとめていたのでしょう。
西山:会社の規模感にもよりますが、ほとんどは社長やCOOが担当していたのではないでしょうか。
弘中:または、営業責任者ですかね。
西山:それぞれの部門にいくつかチームがあって、マネジメントしている人がいる。そしてその上に部長がいて、最終的に全体を統括するのは社長で、実務を見ているのがCOOだったりするんじゃないでしょうか。
田口:そうですね…。COO(チーフ・オペレーティング・オフィサー/最高執行責任者)とCRO(チーフ・レベニュー・オフィサー/最高収益責任者)は同じラインにいてもいいんじゃないかな、というのが私の意見です。COOはPL(損益計算書)から人事・労務までを管理していて、CROはCOOよりもう一段階現場に近いイメージです。
弘中:ポジションは現場と経営層との間、全部門のちょうど中間地点にいるべきだと思っています。私が今のポジションで一番努力をしたことは、各チームのメンバーほど詳しくなくても、同じレベルで会話ができるようにすることです。マーケティングであれば、広告配信はそもそもどんな仕組みかを理解する。また、カスタマーサクセスやカスタマーサポートもどういう原理原則で動いているのかを理解していなければ、調整すらできませんよね。同じ目線で会話をして、それぞれの事業部門が成長するためのボトルネックを突き止め、解決へと導かなくてはなりません。
もし、各部門が連携できていない状態のまま営業が単独で何でもかんでも売ってきてしまうと、カスタマーサクセスチームが問い合わせ対応に追われることになってしまう。そんな状況を作らないためにも、日々、頭を悩ませながら、両チームのバランスをどのように調整すべきかを考えて行動しています。
田口:私は現在、マーケティング・インサイドセールス・フィールド・カスタマーサクセス(カスタマーサポート含む)を横軸で見ていますが、中でもレバレッジをかけているのがセールスです。そのため、トップラインを上げることを目標として奮闘しています。
西山:管理部門も見ているのですか?
田口:管理部門は私の管理下にありません。先ほど述べた部門のほか、プロダクト、レベニューチーム、ビジネスデベロップメントのチームがあり、ビジネスデベロップメントの中に管理部門やHR部門が入っています。
−− レベニューチームの課題感について教えてください。
田口:弘中さんが先ほどおっしゃっていたように、レベニューマネージャーはプロフェッショナルではないにしても、どの部門のメンバーからも信頼されるレベルで一定の知識を持っていなくてはなりません。次に大事なのがオペレーションを考える力。それがレベニューマネージャーという役回りの重要な任務であり、一番大変な仕事でもあります。
何が課題になっていてどう改善をするべきか、ドライブする仕組みをどのように作るか。常に思考を働かせなくてはなりません。
西山:レベニューマネージャーとは違う視点の課題になりますが…。組織が大きくなると、分業するために役割を分けてそれぞれのチームを形成し、各チームをリードやマネージャーがまとめるようになりますよね。しかしそうなると、ある程度、ポストが限られてしまいます。
営業部門の場合、トップセールスを誇る営業マンがマネジメントもできる人であれば、その人がマネージャーになっていく。大企業であれば、多くの役割があるし、営業部も複数存在するので、キャリアの幅は比較的広いかもしれません。しかし、ベンチャー企業だと営業部門は一つのところがほとんどですし、マネージャーレベルの実力を持った人が入社してきても、ポストに空きがなかったりします。ですので、一人ひとりの能力を伸ばし、成長を促すためには、レベニューチームがその先のキャリアビジョンを描いてあげることが大事。今の世の中、ひたすら営業のみをやっていれば市場価値が上がる訳ではないと思っていますので、まずは他の部門が何をやっているのか興味を持つこと、自分がその立場だったらどんな手を打つのか考えてみること、やりたいと思ったら積極的に手を上げて異動を希望すること。こうしたことがスムーズにできる環境を作ってあげるんです。
戦略的にジョブローテーションをして、その人のキャリアをしっかり構築していく。今後、このようなキャリア形成の方法が増えていくのではないでしょうか。
弘中:キャリアの掛け合わせですよね。私も同じ考えで、1つのことだけを突き詰めても価値が上がるものではないと思っています。「営業しかできません」だと、モノやサービスの売り方が変わってきたときに対応できるかわかりませんし。営業部長だと、もしも部下が今後「営業をやりたくありません」と言ってきたとしても、適正を見て配置を決めることはできません。そうした部分をレベニューチームがフォローする動きが必要になってくるでしょう。
今、社内でOKR(Objetives and Key Results)を決めている最中ですが、「マーケティングはこうだよね」「セールスはこうだよね」というように、全員で何をすべきか意見を出し、各部門のOKRを作ろうとしています。そうやって部門間の接点を増やすことで、互いに理解を深めながらも自分が所属する部門以外への興味を持つことができますし、「面白そうだな、自分が所属したらどういうことができるかな」とイメージしやすくなります。営業は営業だけという枠組みだけでは、異動した後のイメージが湧きませんよね。それに、誰かが営業からマーケティング部に異動するとなると、営業部長が「営業の数字が減るんじゃないか」とネガティブに捉えてしまうと思うんです。
田口:実は、今年の1月に、セールスチームに所属していたメンバーを半分ほど異動させたんです。これは本人たちの意思を優先させた異動ですが、普通の企業ではなかなかこんなことありませんよね。4人中、1人はマーケティングに、1人はHRの立ち上げをすることになりました。組織全体の目標値は対前年比3倍でしたが、案外スピーディーに意思決定ができたんです。その理由は、CROである自分が現場のことを理解しているし、やりたいことも描けているし、数字も全部見えているので、問題はないと思ったからです。とはいえ、もし私がCROという立場でなかったら、誰もリスクを負うことができないので、調整が大変だったんじゃないかと思うんです。そこを意思決定することができてよかったなと。
キャリア形成ももちろん重要ですが、私の場合は事業成長のためにすぐに意思決定をしているところがありますね。
−− レベニューチームでよかったことや面白いと思うことは?
弘中:今は、「この市場で勝ちに行くぞ!」というマインドと方向性を統一しなければ絶対に勝てないフェーズに立っています。ですので、営業だけではなく、マーケティングやCSにも同じメッセージを伝えてマインドを醸成している最中です。
一人ひとりのマインドの持ち方がスタートアップフェーズで勝負を決める6割を占めています。歯を食いしばって、踏ん張るべきときに勝負が決まると思っていますので、ぶれることなく、全員に「スマートドライブが目指すのはここだ!」とメッセージを繰り返し伝えて、角度を1度ずつ上向きにしていく。それが、今一番のやりがいです。
全員のマインドと方向性が統一されれば、サポートが問い合わせ対応をしている時にお客様から「まだ、サービスを利用していない車両がある」といった情報を引き出し、クロスセルの機会を得ることができるかもしれません。また、エンタープライズに営業をかけるときは、マーケティングからメールを送信し、アクションがあればすぐにアラートを出して早急に電話やメッセージを送る。そういった連携が調整なくできるようになるのでスムーズな流れを作りやすくなるのです。
西山:たとえば、マーケティングチームが実施した些細な施策が、結果としてインサイドセールス、営業、CSにどうつながっていったか、最近ではツールを使えば可視化することができるじゃないですか。
マーケティングチームの部長はリードがどれほど増えたかを確認するだけかもしれませんが、大事なのはその先です。リードが増えたということは、その施策によって見込み客が増え、商談も増えることになる。しかも、優良な見込み客を獲得できたら、サービス利用の継続率も上がる。このように、施策からその先が繋がっていけば最終的な数字も生き物のように動いていきます。数字を見ながら全体最適を行っていくのは面白さであり、やりがいですね。レベニューチームのさじ加減一つで変わることも多く、それぞれの動きが全部見えるのもこのポジションならではといえるでしょう。
弘中:部分最適ではなく、全体最適ができるというのがレベニューチームの面白み。
たとえば、マーケティングチームが、今期は前期から1.5倍多くのリード獲得を目標に掲げ、結果的に多くのリード獲得ができたとしましょう。しかし、その先の商談を進める営業が大きな案件を抱えていて対応ができなかったり、営業が獲得した顧客とリードとの配分がうまくできなかったりして調整が取れないときは、リード獲得に重点を置かず、予算を抑えてでも広告の設計を見直すべきでは、と別の角度で考える。一部ではなく、全体のバランスを見て調整するところは、西山さんが言っていたことに通ずるものがあります。
西山:SaaSの場合、顧客維持のためにカスタマーサクセスが最重要部門として組織の中枢を担っています。ならば、マーケティングやSDR、セールスに対して意思決定をする基準はどこか。一番は、チームのことだけを考えていたらおろそかにしてしまいがちな顧客視点です。
顧客視点はあたりまえだと思われるかもしれませんが、商売の基本であり本質です。それを実感できる、大切にできるポジションでなくてはならないなと。これも、やりがいであり、求められることだと思います。
弘中:顧客の見え方って、サイコロのようなものだと感じています。営業の人は正面から見ているけど、サポートの人は右から見ていて、マーケティングは左から見ている。そうなると、それぞれのチームが考える顧客の定義が異なっていたり、顧客層が違ってきたりするので、それを1箇所に集めて整理して、「お客様って、この角度からはこう見えるよね」と、全チームが立体的かつ解像度高く見えるようにしなくてはなりません。そうした機能を担うのがレベニューチーム。チーム同士で話しやすい環境を作り、その場で意見を集めていくとスムーズにまとまります。
西山:今までは、COOがビジネスサイドを統括する人というイメージでしたが、最近ではレベニューチームという言い方が一般的になってきた気がします。
弘中:最近、増えましたよね。CROのジョブディスクリプションを見ると、必ず「CRMに精通している人」と記載されています。マーケティングからCSまで、一気通貫で見たとき、データをどのように活用すべきかを答えられる人が求められている。
田口:CROが面白いと思うのは、データもそうですが、オペレーションそのものを設計して、実行するところまでを担当できるところ。
営業部長がマーケティングのオペレーションを変えるのは難しいことかもしれませんが、CROはそれができてします。工場でいうとライン変更に値するぐらいの大きな意思決定ですが、だからこそ面白い。
−− 今後挑戦していきたいことや、目指していることは?
弘中:まだ先の話ですが、社員全員がCROの視点で仕事ができるような組織を作ることが次の目標というか、やってみたいことですね。経営者目線とは少し違い、「こんな動きをしたらあの部門に影響が出るかもしれない」「今、別の部門でこうした取り組みを行っているから、私はこれを備えておいた方がいいんじゃないかな」など、レイヤーを上に上げるというよりも、横に広げたレイヤーで全員が日々の業務を回せると、社員も会社も一気に成長ができるのではないかと思っています。
言い換えると、全員がオペレーショナル・エクセレンス(業務改善プロセスが現場に定着し、業務オペレーションが磨きあげられ、競争上の優位性になっている状態)を考えつくすことができる状態でしょうか。今より効率化できる方法や、他社が実施していて良いなと思った取り組みを真似するなど、日々の活動の中で気づき、意見を出してみんなで変えていく。そうした視点を持つことができれば、働く時間は短いのに成果が出せる組織ができるのではないかと。
西山:そのような組織を描くには、やはりジョブローテーションが大事かなと思います。
もちろん、一つの職種を突き詰めるのもキャリア形成の一つの形としては良いと思うんです。でも、せっかくなら多様な引き出しや可能性を増やす場所を提供したい。
ベルフェイスに入社したら、SaaSのレベニューや構造を深いレベルで理解できる。なぜなら、そういうキャリアステップがあるから、というように、考え尽くされたキャリアステップで、知らず知らずの間にCROの視点を持つようになり、全体最適を考慮したうえで判断ができるような組織にしたいですね。
田口:西山さんの話を伺って、キャリア形成や人材育成への考え方が変わりました。本質的な個人のマーケットバリューを高めるのはマネージャーの役割だと思いますので、今後、しっかりと設計していきたいですね。
西山:個人の価値が上がるということは事業の成長に繋がり、事業の成長が会社の成長にも繫がります。それが結果として、企業の市場価値を高めることになるのです。
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